· 

治療用顕微鏡(マイクロスコープ)について

以前よりも多くの歯科医院で取り入れられるようになった治療用顕微鏡は「マイクロ」などと言われ検索すると様々な情報が出てきます。

 

良く目にするのが「精密」という言葉です。拡大された視野でみることで精密な処置が行え治療成功率が大きく上がるように書いてあることもあります。また、保険で行う治療などマイクロを使用しないものはちゃんとした治療ではないように表現されているものもあります。

 

はたしてそれは医学的にどうなのか?エビデンスから考えてみましょう。

 

これから書くことは、検索して上位に出てくる情報や著名な方の意見とは異なる可能性もあり、特別な陰謀論の様に見えてしまうかもしれません。

しかし、それらは日本や海外の公的機関などが公式に出している決して陰謀論ではないスタンダードなものです。

 

少し脱線しますが、エビデンスという言葉を目にすると特別な難しいイメージを持ってしまうかもしれません。

しかし、エビデンスとは、だた「根拠」のことです。その根拠の強さの評価などが医療では複雑でわかりにくい側面がありますが一般の方がそこまで理解しなくてはならないものではありません。

知っていただきたいのはエビデンス(根拠)には強さの違いがあり論文もそのレベルがまちまちであるということです。

つまり論文を示していても根拠が弱いものをもとに話をされていたり説明されているものもあるのです。

以前に少しだけエビデンスについて書きましたのでよろしければ

  

 

 

結論から言うと現在マイクロスコープによる歯科治療で根拠が少し示されているものは「歯根端切除術」です。

 

歯の神経の管は細菌が増えてしまった場合には根の治療として根管内を治療します。

しかし,それだけでは不十分で根の先に膿の塊などが出来てしまった場合に外科的に外側から根の先を除去して封鎖します。それが歯根端切除術です。

 

それ以外の歯周病に対する治療(外科含む)や歯石取り、虫歯の除去やつめる治療、さらに根の中の管の治療などに強いエビデンスは示されていません2024 10月現在

現時点での話ですので今後エビデンスが強く示される可能性もありますが、マイクロスコープが一般開業医で治療に使用され始めて20年以上がたっている今での状況です。これをどうとらえるかは非常に難しいでしょう。

 

歯科の保険治療は最低限の治療であるという言葉をまれに耳にしますが、この歯根端切除はマイクロスコープの使用が保険の治療で認められて保険収載されています。

 

日本の歯科保険治療は医学的に見て決して最低限の治療ではありません。もちろん保険で認められてない治療もあり、その方個人の状況や状態により保険外の治療が適しているケースもあります。

しかし、それは保険外の治療がどなたにもどんな状況でも絶対的に優れているというよりも、その個人に対して保険の治療の選択肢と比較して適している治療であったにすぎません。

それは、正しいEBM(根拠に基づく医療)の結果であるのではないでしょうか。保険と保険外というものは、制度による仕切りの都合であり、それ自体の治療の良し悪しを示すものではありません。

※EBMについては何かの機会に書きたいと思います

 

例えば、むし歯というものは現在「感染症」ではないとWHOも公式に出しています。

https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/sugars-and-dental-caries

感染症ではないので、過去には感染しているといわれていた歯の部分を全て取るということを推奨していません。

現在むし歯の治療は、柔らかくなった歯(過去に感染歯質と言われていたもの)を除去しなくてはならないとはなっていません。

世界歯科医師連盟のガイドラインでもそのようになっています。

https://www.fdiworlddental.org/sites/default/files/2020-11/2017-fdi_cpp-chairside_guide-jp.pdf

※むし歯については今回は割愛しますが後日詳しく書きたいと思います

 

むし歯自体を除去することが治療として推奨されているとは言えない上に、現在のエビデンスでは臨床の場でむし歯が完全除去が出来ているかを確認する方法はありません。(むし歯検知液含む)つまりマイクロスコープを使用しても完全に除去できてるか分からないのが現状です。

むし歯の予後はむし歯を精密に取るという言葉で良い印象を持ちますが、その精密に取るという一つの要因がその後予後に与える影響は少なくもっと複雑な要因によって決まっています。

※詳しくは後日のむし歯の説明で

 

 

このようにむし歯に限らずその他の治療も複合的な要因によって予後が決まるために精密に行い良く見えることが大きな要因ではない場合があります。

もちろん状況によっては良く見えるほうが良いケースもあります。

 

ではマイクロスコープでの治療が意味がないのか?というとそうではありません。

標準的な治療を行ってもよくならないケースなど一部の特殊なケースや原因を特定するため(診査診断)に必要なケースもあります。

つまり全ての人や全てのケースでマイクロを使用しないと良い治療ではないということではなく、一部の限られた状況に当てはまる時にはマイクロは必要になってくる可能性があるということです。 

当院でも必要があれば自費としての費用負担は特に発生せずに使用を致します

 

簡単にまとめると

 

「よく見えたほうが良い時もあるよね」

 

これ以上でも以下でもないということです。

 

 私も年を重ね見えにくくなってきている状況もあるので状況次第では助かっています。

 

 

 

 

以下は上記の論拠となったエビデンスを紹介していきますが、より多くのことを知りたい人以外は読む必要はありません。

 

PubMedを使用し以下の検索式を使用して調べました。調べるときにはメタアナリシスにチェックを入れたパターンとシステマティックレビューにチェックを入れたパターンで調べました。

 

("dental treatment" OR "dentistry") AND "microscope"

 

("root canal therapy" OR "endodontic treatment") AND "microscope"

 

("periodontal surgery" OR "gum surgery") AND "microscope"

 

("treatment outcome" OR "success rate") AND ("dental microscope" OR "microscope-assisted surgery")

 

("apicoectomy" OR "root-end surgery") AND "microscope"

 

 

("periodontal treatment" OR "non-surgical periodontal therapy" OR "non-surgical treatment") AND ("microscope" OR "dental microscope" OR "microsurgery")

 

 

 

 

コクランライブラリーでは以下のワードを使用して検索をしました。

 

  • microscope-assisted dentistry
  • dental operating microscope
  • microscope endodontic treatment
  • microscopic periodontal surgery
  • microscope in dental surgery
  • dental microsurgery
  • microscope-guided root canal treatment

 

  • root canal treatment microscope
  • apicoectomy microscope
  • periodontal surgery microscope
  • endodontic retreatment microscope
  • implant surgery microscope
  • gingival recession microscope
  • tooth restoration microscope
  • fractured instrument removal microscope

 

上記の検索によってヒットした歯科治療などと関連する論文は以下の通りでした

 

 コクラン

Magnification devices for endodontic therapy

https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD005969.pub3/full?highlightAbstract=endodontic%7Ctreatment%7Cendodont%7Cmicroscope%7Cmicroscop

このコクランレビューは、根管治療における顕微鏡使用の効果を評価しています。顕微鏡を用いることで、治療の成功率や再治療の必要性が改善される可能性がありますが、証拠の質は不十分であるとされています。今後の高品質な研究が求められると結論づけています。

 

Endodontic procedures for retreatment of periapical lesions

https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD005511.pub3/full?highlightAbstract=treatment%7Ccanal%7Cmicroscope%7Croot%7Cmicroscop

このコクランレビューでは、根管治療における顕微鏡の使用が治療結果に与える影響を評価しています。顕微鏡を用いることで、治療の成功率や患者の満足度が向上する可能性が示唆されており、特に複雑なケースでの利点が強調されています。しかし、さらなる高品質な研究が必要であると結論づけています。

 

PUBMED

 

Outcome of endodontic surgery: a meta-analysis of the literature--Part 2: Comparison of endodontic microsurgical techniques with and without the use of higher magnification

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22152611/

このメタアナリシスは、根端手術におけるマイクロサージャリー技術と通常の手法の成功率を比較しました。結果として、マイクロサージャリー(EMS)は、88%の成功率(CRS)に対し、94%の成功率を示し、統計的に有意な差が認められました。特に、臼歯においてEMSの成功率が高く、今後の無作為化臨床試験が必要とされています。

 

 

Efficacy of microsurgery and comparison to macrosurgery for gingival recession treatment: a systematic review with meta-analysis

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33928441/

この系統的レビューは、歯肉退縮の治療におけるマイクロサージャリーとマクロサージャリーの効果を比較しました。19の研究が分析され、マイクロサージャリーは平均で83.3%の根被覆率を達成し、完全根被覆の確率も向上しました。マイクロサージャリーは、手術後の痛みを軽減し、審美性を改善することが示されました。最終的に、マイクロサージャリーはより良い臨床結果をもたらし、患者の満足度を高めることが強調されました。

 

Outcomes of Regenerative Endodontic Treatment Performed Using Different Magnification Devices: A Systematic Review

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38595596/

この系統的レビューでは、歯内治療における様々な拡大装置の使用が治療結果に与える影響を評価しました。MEDLINEとCochraneのデータベースから、拡大装置を使用した再生内歯治療に関する臨床研究を抽出し、3つの研究が含まれました。結果として、ルーペや顕微鏡を使用した場合でも治療結果に有意な差は見られず、今後の無作為化臨床試験が求められると結論づけています。

 

Endodontic therapy using magnification devices: a systematic review

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20117164/

この系統的レビューは、歯内療法における拡大装置の使用が臨床的および放射線的結果の改善に関連するかを調査しました。2009年9月までの文献を検索し、拡大ルーペや顕微鏡を用いた治療の効果を比較しましたが、結果に有意な差は見られませんでした。

 

 

 

上記の様に歯根端切除術に関しても、他に比べるとエビデンスがありますがそれでも高いとは言えない状況です。

また歯肉退縮(歯茎が下がって歯根が出てしまっている状態)に関する文献では良い評価の様に見えますが規模の小さな研究が多くほかにも問題点があり信頼性が高いとは言えない可能性があります。

 

結論から言えば歯科における顕微鏡治療はブログを書いている現時点では歯根端切除術以外のエビデンスはそこまでないと言えるのではないでしょうか?