今日はお口に関わる金属アレルギーについてを書いてみたいと思います。
まず私の結論としましては
金属アレルギーの診断は非常に難しく医科の専門との連携が必須である
お口の中に金属があるからといって必ずしも悪影響があるとはいえず「金属」=悪ではない
金属にアレルギーが無い人にとっては全く問題ない可能性が高い
金属により悪影響が出るか?は個人によって違い金属の種類によって変わる可能性もある
金属を「悪」として闇雲に除去する必要はない
医科の検査等により歯科に関わる金属アレルギーと診断を受けてから医科との連携を経て除去をするか検討する必要がある
アレルギー反応は非常に複雑であり口腔内の金属を除去しても症状の消失や軽減がされない可能性もある
除去後の症状などの消失は直ちには起きずに数年経過してからの可能性がある
現在の医学の標準的な考えとしては上記のようになるのではないでしょうか。
当院は金属の除去を否定している訳ではありません。金属のアレルギーによる症状を改善するための除去や金属を有害として除去をする場合にはメリットデメリットを比較して慎重に行う必要があると考えています。
その一方で見た目が気になるなど個人の理由として除去することはメリットデメリットを比較した上では正当な行為であると考えています。
※見た目など病名のない除去は自費扱いになります
それらの理由を少しずつ解説していきたいと思います。
まず歯科の金属を検索すると必ず出てきて悪者にされてしまう「アマルガム」という金属にも少しふれておきます。
※本題のアレルギーとは少しそれてしまいます
このアマルガムは水銀が含まれているために危険といわれ、必ず除去をするように促す記述も散見されますがそれは強い根拠があるとは言えません。
むしろ闇雲に除去をすることのほうが推奨されていません。
※現在はほとんどの歯科医院でアマルガムは治療に使用されておりません
もちろん水銀にアレルギーのある方は除去する必要があるかもしれません。
アメリカ食品医薬品局(FDA)より患者さん向けの情報が出されております。以下そちらから引用(Google翻訳まま)
歯科用アマルガムとは何ですか?
歯科用アマルガムは、その外観から「シルバーフィリング」と呼ばれることもあり、水銀、銀、銅、スズ、亜鉛の混合物で、歯の空洞を埋めるために使用されます。歯科用アマルガムは、重量で約半分 (50%) の水銀です。
歯科用アマルガムは安全ですか?
歯科用アマルガムの詰め物は、既存の詰め物の数と年齢、および歯ぎしりやガム咀嚼などの行動に応じて、蒸気 (ガス) の形で少量の水銀を放出する場合があります。新しいアマルガムの詰め物を入れたり、古い詰め物を取り除いたりすると、患者や医療提供者は水銀蒸気への曝露が一時的に増加することがあります。歯科用アマルガムの小さな粒子の摂取 (飲み込み) に関連する既知の健康リスクはありませんが、水銀蒸気の吸入 (呼吸) は、特定の患者に有害である可能性があります。
一般に、複数の歯科用アマルガム充填物を使用している人は、血中または尿中の水銀レベルがわずかに高くなる可能性がありますが、通常は安全と見なされるレベルのままです. 歯科用アマルガムを持つ人々に関する研究は、歯科用アマルガムが一般集団に有害な健康影響を引き起こすという決定的な証拠を示していません.
歯科用アマルガムについて誰が心配する必要がありますか?
妊娠中または妊娠を計画している女性、授乳中の母親、子供 (特に 6 歳未満の子供)、水銀に対する既知のアレルギーがある人、神経障害または腎機能障害のある人など、特定の人は、歯科用アマルガムからの水銀への曝露の影響を受けやすく、健康への悪影響のリスクが高くなる可能性があります。歯科用アマルガムからの水銀蒸気への暴露がこれらの人々のグループに及ぼす潜在的な健康への影響については、ほとんど情報が知られていません。そのため、特定された高リスク集団の 1 つであり、新しい詰め物が必要な人である場合、FDA は、可能かつ適切であれば、歯科用アマルガムを避けることを推奨しています. あなたの健康歴やその他の詰め物の治療オプションについて、歯科医師に相談してください。
- 妊娠中または妊娠を計画している女性。妊娠中の母親に新しいアマルガム充填物を配置すると、母親と胎児への水銀暴露の一時的なスパイクが高くなる可能性があります. いくつかの研究は、母親が持っているアマルガム充填物の数と臍帯血中の水銀レベルとの関係を示しています. これらの研究の結果は、健康への有害な影響との特定の関連性を特定しませんでした。ただし、データは非常に限られています。
- 授乳中の母親。母乳中の水銀の量は通常非常に少ないです。いくつかの研究では、母親が持っているアマルガムの詰め物の数と母乳中の水銀の量との関係が報告されています. 母乳育児の結果として歯科用アマルガム水銀にさらされた乳児や子供への潜在的な害を評価するために実施された非常に少数の限られた研究では、健康への有害な影響との明確な関連性は特定されませんでした.
- 子供、特に 6 歳未満の子供。6 歳以上の子供を対象とした臨床研究では、歯科用アマルガムの使用と健康への悪影響との間に明確な関連性は見出されていません。6 歳未満の子供に関する研究は非常に限られています。子供の発達中の神経系は、水銀蒸気への曝露に特に敏感である可能性があります.
- 水銀または歯科用アマルガムの他の成分に敏感な人。一部の人々は、水銀または歯科用アマルガムの他の成分 (銀、銅、スズ、亜鉛など) に対してアレルギーまたは過敏症を持っている可能性があり、使用後にアレルギー反応や口腔潰瘍などの健康への影響や、より一般的な症状を報告または経験する可能性があります。アマルガム充填の配置。
- 神経障害または腎機能障害のある人。研究によると、水銀は脳や腎臓などの体の特定の組織に局在しています。すでに腎臓および/または神経障害を患っている個人に対する水銀蒸気暴露の健康への影響については、非常に限られた臨床情報しか入手できません。
歯科用アマルガム充填物は除去する必要がありますか?
詰め物の状態が良好で、歯科医師または医療専門家が詰め物の下に虫歯はないと言っている場合は、アマルガムの詰め物を取り除くことはお勧めしません。. これは、無傷のアマルガム充填物を除去すると、健康な歯の構造が不必要に失われる可能性があり、除去プロセス中に放出される水銀蒸気の一時的な増加にさらされる可能性があるためです. 医療専門家が医学的に必要と判断しない限り、妊娠中または授乳中の母親や子供などのリスクの高いものを含め、無傷のアマルガム充填物は、病気や健康状態を予防する目的で取り除かれるべきではありません. 健康状態 (特に水銀に対する過敏症またはアレルギー、または神経疾患または腎臓疾患) がある場合は、歯科医または医師と取り外しおよび交換の必要性について話し合う必要があります。
間単にアマルガムをまとめますと、特定の人(妊娠中 授乳中 6歳未満 神経障害 腎機能障害)には影響がある可能性がありますが今のところ歯科の微量な物での健康障害が起きる明確な根拠はありません。※水銀アレルギーがある人は注意が必要です
新しく治療を受ける場合にはアマルガムを使用することを避ける必要があるとしています。
※現在国内で新しくアマルガムの治療を受ける可能性はほぼありません
すでにお口の中にあるアマルガムについてもむし歯が無い場合には除去を薦めていません。削り取る際に放出される水銀蒸気の一時的な増加にさらされる可能性が起きるからです。※削る時の水銀蒸気も万人に危険である明確な根拠もない
専門家が除去が必要であると判断しない限り、妊娠中や授乳中や子供などリスクの高い人であっても健康状態や病気を予防する目的で除去するべきではありません。健康状態(水銀アレルギーまたは神経疾患 腎臓疾患)がある場合には医師歯科医師と相談の上で必要があればとなっています。
今回の本題である金属アレルギーで水銀の診断がある場合には医師との十分な相談の上、除去が必要な可能性はあります。
日本歯科保存学会でもアマルガムについてQ&Aがあります。FDAとほぼ同じことが書かれています。
では本題の金属アレルギーについてに戻ります。
日本皮膚科学会の接触皮膚炎診療ガイドライン 2020
の中で金属アレルギーについてが書いてあります。
以下引用しながら解説いたします。
金属によるアレルギーの病型は?
A.金属接触アレルギーと金属による全身性接触皮膚 炎(全身型金属アレルギー63) )がある. 解説:金属を含有する装飾品などが直接接触皮膚炎を 生じる金属接触アレルギーと,食品中や歯科金属に含 まれ,全身に吸収されて遠隔部位に皮疹が生じる全身 性接触皮膚炎(全身型金属アレルギー)がある.
今回はこの全身性接触皮膚炎が歯科との関係が深いため取り上げています。
全身型金属アレルギーによる発疹型はどのような ものがあるか?
A.汗疱状湿疹,掌蹠膿疱症,扁平苔癬,貨幣状湿疹, 亜急性痒疹,多形慢性痒疹,紅皮症,偽アトピー性皮 膚炎などである
この中で歯科で関連が良く出てくくるものは扁平苔癬と掌蹠膿疱症です。
扁平苔癬はお口の中に白いレース状の病変を認めます。潰瘍などが生じると痛みを伴う場合もあります。
日本口腔外科学会口腔外科相談室 引用 https://www.jsoms.or.jp/public/disease/setumei_koku/
掌蹠膿疱症は手のひらや足裏の皮膚に水膨れや膿をつくり破れたりを繰り返します。細菌感染が原因ではないため人にうつることはありません。
※日本皮膚科学会診療の手引き 掌蹠膿疱症診療の手引き 2022 引用https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/PPP2022_220920.pdf
全身型金属アレルギーの診断には何が有効か?
A.スクリーニングにはまずパッチテストを施行する が,偽陰性や偽陽性が多い.内服テストなど吸収増加 による皮疹の増悪,吸収減少による皮疹軽快が診断の 決め手となる.
パッチテストといわれる背中や腕などに疑われる金属成分を含むものを張り付け反応をみる検査が良く使用されますが偽陰性や偽陽性が多いことが書かれています。つまり一つの検査では確定は出来ないことが分かります。
日本補綴歯科学会の:第 130 回記念学術大会╱イブニングセッション 5
「歯科金属アレルギー患者への対応〜検査,診断,治療方針と他科連携~」
では治療などに対し以下の様にあります。
以下抜粋
歯科金属アレルギーは金属溶出の機構,アレルゲン 感作・惹起経路がいまだ未解明である.歯科金属アレ ルギー関連疾患と言われている皮膚粘膜疾患に関して も,原因不明の難治性疾患が多く,歯科金属アレルギー との関連に関して十分に解明されていない.歯科金属 アレルギーと歯科金属アレルギー関連疾患に関する, 良質で詳細な基礎研究,臨床研究,症例報告は多く認 められるが,十分ではない. さらに,歯科金属アレルギー患者の病態は多様であ り,金属に対する反応や治療効果も患者によって異な る.また,経済状況や近隣の医療機関の設備などの都 合によっても,可能な検査,治療内容にも制約があり, 診療ガイドラインの策定は現時点では極めて困難であ る.それ故,歯科金属アレルギー患者への対応は個々 の患者に状況に即したオーダーメイド的な個別対応が 必要となる場合が多い.
未解明な点が多く金属アレルギー関連といわれている粘膜疾患も原因不明で難治性が多く歯科金属との関連も十分に解明されていないとあります。
また治療効果も患者よって異なるとも書いてあります。
歯科においてはガイドラインを作ることは困難であると書いてあります。つまりこの様に万人に治療しましょうという指針が無いということです。個人の状態に対して慎重に方針を決める必要があります。
また他の項でも除去をしても必ず治るとは言えないことが書かれています。
そして医科_歯科の連携の重要性も書かれています。
さらに詳しいことが知りたい方は上記の引用元などををご確認ください。
まとめ
金属アレルギーは診断が難しく医科との連携が必要である。
金属にアレルギーが無い人には有害とは言えない。
そして金属アレルギーと診断されたとしても口腔内の金属を除去することによって症状が必ず消失、軽減するとは言えない。
金属除去によるデメリットもある。
つまり安易に金属を除去することには、メリットが必ずしも認められる訳ではないということです。
金属が入っているから悪いとは考えず、個人の感受性などを考え歯科金属アレルギーの診断が付き金属除去が必要となった時にのみ治療効果を期待しての金属除去は行うべきではないでしょうか?
※単純化するために正確とは言えない表現などが含まれます